先生だって社会人1年生〜離島の教育現場を支える人たちの想い〜

 沖縄県の離島地域である宮古・八重山。豊かな自然に囲まれたこの地域では、毎年多くの新任教職員が教育現場へと飛び込んできます。しかし、授業づくりや学級運営だけでなく、保護者対応や地域との関わりなど、教員に求められる役割は決して少なくありません。
 そんな新任教職員の成長を支えるために尽力しているのが、沖縄県教育庁八重山教育事務所と沖縄県教育庁宮古教育事務所です。今回は、八重山教育事務所・指導主事の具志堅美和さん、宮古教育事務所・指導主事の謝敷優子さんに、離島ならではの課題や人材育成への想いについてお話を伺いました。

謝敷優子さん

沖縄県教育庁宮古教育事務所
指導主事

具志堅美和さん

沖縄県教育庁八重山教育事務所 指導主事

「トリプルパンチ」と向き合う新任教職員たち

 「私はいつも【トリプルパンチ】と呼んでいるんです。」
 そう話してくれたのは、八重山教育事務所の具志堅さんです。トリプルパンチとは、「初めての社会人」「初めての一人暮らし」「初めての学校の先生」という三つの《初めて》のこと。新任教職員の多くは、大学を卒業したばかりで教壇に立ち、保護者や地域と関わることになります。
 「ある校長先生から『新任教職員は保護者にも電話できないよ』と言われたことがありました。もちろん努力不足ではありません。電話対応を学ぶ機会がないまま教壇に立っているんです。」
 一般企業であれば、新入社員は研修を受けながら少しずつ仕事を覚えていきます。しかし教員は、4月から『先生』として子どもたちの前に立たなければなりません。だからこそ具志堅さんは、接遇やコミュニケーションを学ぶ機会を設け、不安を払拭する必要があると感じていました。

 また、宮古教育事務所の謝敷さんも、新任教職員との向き合い方に工夫を凝らします。 「教員も社会人も一人暮らしも全部が初めて。だからまずは、新任教職員が安心できる環境をつくることが大事だと思っています。」その言葉からは、一人の人間として若い教職員を支えたいという想いが伝わってきました。

離島だからこそできる見守り

 今回の取材で印象的だったのは、お二人とも自らの関わり方を「母親のような気持ち」と表現していたことです。沖縄本島では一人の担当者が100名以上の新任教職員を支援することもありますが、八重山や宮古では、一人ひとりの顔と名前が分かる距離感で関わることができます。
 「八重山の新任教職員は幸せ者だと思うんです」と語る具志堅さん。困った時に相談できる関係性を築きながら、教育事務所や学校全体で若手教員を育てていく。その土壌こそが、離島地域の教育を支える強みなのかもしれません。

地域を越えて広がった学び

 2025年5月、八重山教育事務所では、新任教職員向けのマナー研修を実施しました。その研修を担当したのがワダチラボです。
 電話対応や保護者とのコミュニケーションなど、現場ですぐに活用できる内容を扱う一方で、私たちが大切にしたのは「単なるスキル提供の場にしないこと」です。トリプルパンチの中で奮闘する新任教職員に寄り添いながら、「まだまだ頑張れる」と、自信や安心感を持ち帰ってもらうことを意識しました。
 その狙いは、研修後の反応にも表れていました。具志堅さんが「今年の同期はとても仲が良い」と表現するほど、受講者同士の関係づくりにも良い影響があったようです。それは、研修後のアンケートでも伺い知ることができます。

  •  「相手のことを考えながら受け止めて、自分の意見を伝えられるように頑張りたい」
  •  「電話対応に苦手意識がありましたが、気持ちがとても楽になりました」
  •  「社会人1年目は当たって砕けろ!の気持ちで頑張りたいと思います」

 その後、この取り組みは各地区の教育事務所との情報交換の場でも共有され、翌年2026年5月の宮古の新任教職員研修へとつながっていきます。具志堅さんの“新任教職員を支えたい”という思いと、それを形にする研修の取り組みは、八重山の先生方へ、そして地域を超えて宮古へと広がっていきました。

教えるのは知識だけではない

 お二人が教職員として大切にしているのは、「人間性」という視点です。教科を教えるだけでなく、保護者や地域との信頼関係を築く力も教員には求められます。

 具志堅さんは、「AIが普及する時代だからこそ、教員は人とのつながりや礼儀、マナーを伝える存在になる」と語ります。知識や情報が容易に手に入り、AIによって個々人に合わせた指導が可能となりました。だからこそ、人であるから伝えられる価値の提供が今求められています。その身近なお手本として体現することが、これからの教員に求められているのかもしれません。

教員を支えることは、子どもたちを支えること

 取材を通して私が感じたのは、教育事務所の皆さんが支えているのは、単に「教員」ではないということです。その先にいる子どもたちや保護者の未来を見据えながら、ひとりひとりの教職員に寄り添う姿勢が、言葉の端々から伝わってきました。
 ワダチラボでは、企業や自治体を中心に人材育成支援を行っていますが、近年は今回のように教育現場からもお声がけをいただく機会が増えています。
 私たちはこれからも、「人が成長するきっかけづくり」を通して、企業だけでなく、地域や教育の現場にも寄り添いながら、人材育成を支える輪の一員として歩み続けたいと考えています。

文 久高せいや